8.さよなら濾沽湖
しばらく呆然としたまま濾沽湖(ルグフ)を眺めていると、ドライバーが僕を呼びにきた。
「宿に案内してやる、こい!」
「OK!」

炭火で夕食を作る
食事を終えると、部屋には戻らず、夜中だというのに早速、湖の周りをうろついた。普通なら、一応、観光スポットなんだし、お店やレストランの一つぐらいあっても良さそうだったが、夜も遅く、ロウソクのあかりがポツポツと見えただけだった。
部屋に戻ると、現実に明日の予定をたてることにした。当初、考えていた時間に濾沽胡に着くことができず、予想以上に遠く離れた場所であると痛感していた。せめて、今日の昼過ぎぐらいに到着していれば、ゆっくりと観光することも出来たのに。現実には、明後日の昆明発の飛行機に乗らなければならない。となると、明日中には、昆明に入っておきたい。しかし、昆明は遠い。濾沽胡から麗江までバスで約12時間、麗江から昆明までバスで約10時間という距離なのだ。単純に上手く乗り継げても、22時間。もし、途中で崖崩れとかが起こり、足止めを食らうようなことでもなれば、それ以上の時間は裕にかかる。もしかりに、麗江から飛行機で昆明に飛んだとしても、上手く乗れるかどうか。大体、濾沽胡から麗江までは最低でもバスで12時間かかる。夜遅くまで、飛行機があるのかどうか。
様々なケースを想定し、最善のプランを計算した。そして、僕が出した答えは、明日の朝、8時のバスで寧浪(ニンラン)に戻り、そこで、昆明行きの夜行バスに乗り継ぐ。昆明到着は、明後日の朝8時。まさに24時間テレビ状態なのだ。でも、策はそれしかないような気がした。折角、こんなところまでやってきたのに、充分に時間をかけることができず、朝の8時には、旅立ってしまう。移動するためだけに来たみたいな旅だった。しかし、一目でも、神秘の湖を見ることができた。それだけでも、一応満足していた。この悔いは、いつか再び訪れたときに晴らすことにしよう。

さよなら濾沽胡
8時の寧浪行きのバスに乗り込んだ。バスが走り出してすぐに、民族衣装を身にまとったモソ人の女性が通りを歩いていた。未だに引き継がれている母系社会。財産は母から娘へと相続され、夫は実家に住み、夜だけ妻のもとへ通う。そんなモソ人のとても絵になる写真を撮ることも出来ず、バスは無情にも濾沽胡の街を走り抜けていった。