FUNKY MONKEY TRAVELERS

CROSS THE MIDDLE EAST 11 -中東旅行記-

11.寄り道

エド・ディルの頂上

エド・ディルの頂上

エド・ディルを目の前にして、今までの疲れがどこかに吹き飛んで行ったような気がした。興奮したまま、僕は藤巻さんと一緒に遺跡の左手を駆け登り、エド・ディルの神殿頂上に立った。柵も何もない頂上。間違って足を踏み外せば死んでしまうだろう。しかし、そこからの風景は格別のものだった。このペトラを征したようなそんな気にさせるものだった。
はしゃぎながら、地上に降りてくると、宿で会った日本人男性がいた。彼の名は平野さん。昨年、司法試験に合格して、今は骨休めで中近東を旅しているという。他にも多くの観光客がいたが、日本人観光客が多い。その中に2人の日本人男性とレバノン人の女の子のグループがいた。聞くと、ドイツ留学していたときに偶々彼女と一緒で、彼女を頼りにレバノン、ヨルダンと旅しているらしい。ちなみにレバノン人の女の子の名はリタ。まあ、その時は「へえ、レバノン!」という感じで、とりあえず終わった。
翌日、僕と平野さんはペトラに別れを告げ、一緒にアンマンに戻ることになった。昨日のレバノン人の女の子リタも一人でレバノンに帰るらしく、アンマンに向かうということなので「それじゃ一緒に」という話で、タクシーを相乗りすることになった。エド・ディルで会ったイギリス人男性クリスも同乗した。彼はイスラエルのエイラットで働いていたが、イギリスに帰国する。だが、どうしてもペトラだけは見てみたいということで、やって来たらしい。車内は和気藹々と異国人同士で話は盛り上がった。アンマンで同じ宿に泊り、翌日には、僕はイスラエルへ、平野さんはジェラッシュ遺跡へ、リタはレバノンへ、クリスはイギリスへというはずだった。しかし、状況は急に変わった。
話の中でリタが僕たちに「いつかレバノンに遊びに来てよ」と言うのである。しかし、これから僕と平野さんはイスラエルに行くことになっていた。イスラエルとレバノンは政治不和のため、一旦イスラエルに入国し、パスポートにスタンプが押されてしまうと、レバノンには入国できない。つまり、パスポートの有効期限が切れるまで、レバノンに行くことは出来ない。したがって、僕たちのパスポートの期限が切れるまでは、レバノンには行けない。ただし、逆の場合はOKで、レバノンに入国してもイスラエルには行ける。
平野さん(左)、クリス(中)、リタ(右)

平野さん(左)、クリス(中)、リタ(右)

僕たちは「これからイスラエルに行くから、レバノンに行けたとしても5年後ぐらいだよ」と悲しく答えた。
すると、意外な答えが返ってきた。
「これからレバノンに行けばいいのよ」というのだ。
「え!」 僕たちは驚いた。大体、レバノンの観光ビザというのは非常にとりにくい。日本人になんてなかなか発行してもらえない。しかも午後3時を過ぎている。今からレバノン大使館に行っても、すぐにビザを発行してもらえないはずだ。
ところが!彼女はすごい人物だった。まだ20歳という年齢ながら、絶大な権力者を持っていた。実は、彼女の母親が、現レバノン大統領の実姉らしく、リタは大統領の姪だった。彼女の多分大丈夫という言葉を信じ、すぐにレバノン大使館に向かった。大使館の入口の警備は厳重で、警備員はビザの受付時間は終わったという。
「やっぱり無理か」と思ったが、リタは警備員と何か話をして、一人で館内へと入っていった。約15分後、中から出てきたリタは僕と平野さんを館内へ呼び寄せた。
「今から大使に会うけど、私たちは昔からの友人で偶然ペトラで再会した。それで急遽レバノンに行くことになった、と話してあるわ。口ぶりをあわせてね」という。2人で緊張しながら大使室へ入ると、初老の大使が親切そうに握手を求めてきた。なんとか下手な芝居で大使を騙し、僕たち2人はビザを即時発行してもらった。
僕たちはベイルートまでの航空券を買い、明日レバノンに旅立つことになった。